ECサイトの障害対応では、技術的な原因調査やベンダーからの復旧連絡を待つだけでは、販売・顧客対応・受注処理の判断が遅れます。とくに確認すべきなのは、次の4点です。
消費者調査の報道では、ネットショッピング中のトラブルで窓口に問い合わせない回答者が63.4%とされています。問い合わせ件数が少ないことを、影響が小さい根拠にはできません。また、この数値は障害の発生頻度や個別店舗での離脱率を示すものではありません。障害中に何が起きたかは、注文一覧や決済記録などの業務データで確認する必要があります。
そこで有効なのが、障害の発見からクローズまでを1件のインシデント台帳として残す方法です。台帳は障害報告書ではなく、その場の判断と未完了タスクを共有するための運用表です。原因が確定していない初動でも記入を始めます。
障害対応の責任者を一人に固定できない場合でも、「販売可否の決定者」「カート・決済事業者への確認担当」「告知の掲載担当」「受注照合の担当」を当番表で明確にしておくと、役割の空白を減らせます。
「サイトが落ちた」という記録だけでは、販売停止の範囲も、復旧後に照合すべきデータも決まりません。最初に、影響を次の5区分で判定します。同時に複数区分が影響を受けることもあります。
| 区分 | 確認する状態 | 主な業務上の論点 |
|---|---|---|
| ストアフロント | トップ、商品、カートが表示・操作できるか | 流入を継続するか、告知を出すか |
| チェックアウト | 購入情報入力から注文確定まで進めるか | 新規受注を受けるか、広告を止めるか |
| 決済 | 承認、売上、エラー、返金処理に異常がないか | 決済済み未受注、重複決済を確認するか |
| 管理画面・受注管理 | 注文閲覧、在庫更新、出荷操作ができるか | 出荷を継続するか、手作業記録を始めるか |
| 外部連携 | OMS、WMS、配送、MA、会計、アプリ、API連携が動くか | 注文連携漏れ・重複・在庫差異を確認するか |
Shopifyを利用している場合、Shopify Statusでは、Admin、Checkout、Storefront、API & Mobile、Third party servicesなど、コンポーネント別に状態と過去のインシデントを確認できます。確認日:2026年9月16日。表示障害があっても、管理画面やチェックアウトまで停止しているとは限らないため、コンポーネント単位で台帳へ記録します。
ecforceの公式サポートサイトには、管理画面遅延、購入ページへのアクセス不具合、API障害、決済エラーなどのお知らせがあります。BASEにも障害・メンテナンス情報の掲載区分があります(いずれも確認日:2026年9月16日)。利用中のカート、決済代行会社、外部アプリ・OMS・WMSそれぞれについて、公式の確認先URLを平時から台帳テンプレートに登録してください。
ここでの目的は、公式情報だけを待つことではありません。自社でも、PC・スマートフォン、ログイン前後、代表的な決済手段など、購入者に近い条件で再現を確認します。ただし、障害時にテスト注文を作ると受注・決済の照合を複雑にすることがあります。テスト環境、テスト用商品、テスト決済手段を使える場合を除き、無目的な注文操作は避け、実施した操作は必ず台帳に残します。
障害発生時に「全店を止めるか、何もしないか」の二択にすると判断が重くなります。販売状態を3段階にし、障害箇所ごとに切り替え条件を決めます。
ストアフロントやチェックアウト、主要な決済、注文記録に異常がなく、外部連携に遅延があっても手動で補える場合は、販売を継続する選択肢があります。
ただし、「サイトが見える」だけでは継続判断に足りません。少なくとも以下を確認します。
一部の決済手段、特定端末、外部連携だけに不具合がある場合は、影響する広告キャンペーンや販売対象だけを止める判断があります。たとえば、注文は受けられるがOMS連携が止まっているなら、出荷能力と手作業で管理できる注文量を踏まえ、広告を一時停止しつつ自然流入だけを受ける設計です。
限定販売では、次を台帳に明記します。
在庫が少ない商品、出荷締切が短い商品、予約・定期購入などは、連携遅延の影響が大きくなり得ます。一律の時間基準ではなく、自社の商材、出荷体制、広告費、代替導線の有無に合わせて基準を作ります。
チェックアウトで注文確定できない、決済結果を確認できない、注文が欠落する可能性がある、在庫引当が機能せず過剰販売を防げない、といった場合は受注受付を停止します。広告や配信中のメール、SNSの固定リンクも同時に確認します。
受注停止は売上機会を失う対応ですが、成立状況が不明な注文を増やすコストや、購入者の混乱を抑える目的があります。停止する場合も、出荷作業まで止めるべきとは限りません。すでに受注・決済・在庫引当を確認済みの注文は、障害範囲と出荷システムの状態を確認したうえで、別途「出荷継続」「保留」を決めます。
原因未確定の段階で推測を書いた告知は、後で訂正の負担を増やします。EC-CUBE公式は、サイト閲覧不可などの障害時にサービス提供者の公式情報で状況を把握し、復旧見込みとともにトップページで告知することを案内しています。確認日:2026年9月16日。
一次告知では、原因の説明よりも、購入者が今取るべき行動を優先します。少なくとも次の項目を確定させます。
告知例は以下です。
現在、一部のお客さまにおいて購入手続きが完了しにくい事象を確認しています。原因および影響範囲を確認中です。購入完了画面または注文確認メールを確認できない場合は、同じ注文を繰り返さず、注文日時・商品名を添えてお問い合わせください。次回の状況更新は○月○日○:○○を予定しています。
この文面では、決済が完了しているかどうかを確認できていない段階で「注文は受け付けられていません」と断定していません。購入者に必要な行動と、次の更新時刻を示しています。
告知の掲載先は、障害範囲に応じて使い分けます。サイト内に表示できないなら、公式SNS、メール、サポートページなどを候補にします。ただしSNS投稿だけでは、すでにチェックアウトへ進んでいる購入者に届かない可能性があります。利用可能な画面、カートの告知機能、外部ページを事前に確認し、掲載先と更新担当を台帳に持たせます。
画面が復旧した時点は、障害対応の完了時点ではありません。障害開始から復旧宣言までの時間帯を対象に、少なくとも注文、決済、出荷・連携を別々に確認します。画面上の注文数だけで終えないことが重要です。
まず、台帳に記録した「最初の異常確認時刻」と「復旧確認時刻」を対象期間にします。公式の障害告知時刻だけでなく、自社で不具合を確認した時刻も残します。
次に、照合に使うデータと取得時刻を固定します。
データの更新遅延があり得るシステムでは、復旧直後に一度照合して終えず、次回照合時刻も設定します。連携の再送や遅延反映がある場合、早すぎる確定は注文漏れと誤認する原因になります。
照合結果は、次のように分類すると処理を進めやすくなります。
| 照合結果 | 想定する確認 | 初期対応 |
|---|---|---|
| 注文あり・決済あり・出荷連携あり | 通常処理か | 出荷条件を確認して通常フローへ戻す |
| 決済あり・注文なし | 決済記録、注文作成失敗、重複操作 | 決済事業者・カートの記録を確認し、顧客連絡前に成立状況を確定する |
| 注文あり・決済状態不明/エラー | 与信・売上・注文の状態差異 | 出荷保留の要否、再決済依頼の要否を決める |
| 注文・決済あり・出荷連携なし | OMS/WMS/API連携、在庫引当 | 重複出荷を防ぎながら再連携または手動出荷を行う |
返金、再決済依頼、再注文依頼は、決済状態と注文成立状況を確認してから実施します。障害時に購入者が複数回操作している可能性もあるため、氏名やメールアドレスだけで単純に重複扱いにせず、注文番号、決済取引ID、時刻、商品・金額を突き合わせます。
個別連絡は、障害告知を見た人だけを対象にしてはいけません。たとえば、決済済み未受注、受注済みだが出荷に影響、重複注文・重複決済の可能性がある注文など、照合結果から対象を抽出します。
連絡文には、確定事項、対応内容、購入者に求める操作の有無、回答期限を分けて記載します。未確定の状態で再注文を依頼すると重複の可能性があるため、注文・決済の確認中であれば、その旨と次回連絡時刻を伝えるほうが安全です。
スプレッドシート、チケット管理ツール、社内ドキュメントのいずれでも構いません。重要なのは、時系列、判断、照合結果を同じ案件番号で追えることです。
台帳は詳細な障害原因を記述する場所でもありますが、初動では空欄があって問題ありません。「未確認」「確認中」と記録し、誰がいつまでに確認するかを入れます。原因分析の完了を待たずに、販売・告知・照合を動かせることが、この台帳の役割です。
障害時の判断を早めるには、ツール導入より先に連絡先と権限を確認します。次の項目を定期的に見直してください。
障害のすべてを事前に防ぐことはできません。一方で、販売可否、告知、影響注文の照合をあらかじめ分離しておけば、「復旧したら終わり」ではなく、購入者と受注の状態を確認して通常運用へ戻す手順を作れます。まずは直近の小さな不具合やメンテナンスを題材に、台帳を一度書いてみると、連絡先・権限・照合データの不足を洗い出せます。
記事では答えきれない個別の状況にもお応えします。