新しいお客様アカウントへの移行で確認すべきなのは、ログインできるかだけではありません。B2Bでは、取引を開始するまでに「申請を受ける」「取引条件を審査する」「必要書類を回収する」「会社・拠点・担当者を紐付ける」「初回発注へ案内する」という複数の工程があります。
旧来のLiquidベースの会員ページに申請フォーム、マイページ、担当者向けメニュー、独自の遷移処理を集約していた場合、新しいお客様アカウントへの切り替えを機に、その責務を分けて設計し直します。本記事では、画面を以前の見た目に近づけることではなく、誰が何を確認し、どの記録を正とするかを決める方法を扱います。
Shopifyの公式開発ドキュメントでは、新しいお客様アカウント向けのCustomer Account UI Extensionにより、プロフィール、注文一覧、注文詳細などを拡張できると案内されています。B2Bのプロフィール画面には、会社情報、拠点住所、支払方法、スタッフ管理に関連する拡張ポイントがあります。一方で、これらの拡張ポイントがあることは、審査ワークフロー、書類保管、社内の承認権限までを標準で代替することを意味しません。用途ごとに担当レイヤーを決める必要があります。
移行の完了条件を「旧会員ページを再現した」と置かず、「申請から初回発注までの各状態について、顧客・CS・営業が次の行動を迷わず実行でき、記録の保管先が一意である」と置くと、実装と運用の抜け漏れを確認しやすくなります。
会員申請・承認フローは、画面の一覧ではなく状態遷移として棚卸しします。最低限、次の状態を自社の運用に合わせて定義してください。
このとき、「顧客アカウントが存在する」と「取引を承認した」を同じ状態として扱わないことが重要です。申請の連絡先としてアカウントが存在しても、会社・拠点への紐付け、取引条件の設定、必要書類の確認が終わるまで注文を受けない設計はありえます。反対に、既存取引先への担当者追加では、会社自体の審査を再度行わず、追加担当者の本人確認や権限確認だけを行うケースもあります。
状態ごとに、次の4点を決めます。
たとえば「必要書類の確認待ち」であれば、顧客には提出方法と不足項目を案内し、社内では書類受領日時・確認者・判定を台帳に残します。書類そのものをどこに保存するか、誰が閲覧できるかは、Customer Account UI Extensionの表示可否とは別に決めるべき事項です。
新しいお客様アカウントの設計では、機能を次の3層に分けます。分ける目的は、すべてをShopify内に集約することではなく、変更時の責任範囲を明確にすることです。
| 層 | 置く対象 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| Shopifyの会社・拠点・スタッフに関する情報 | 取引先の構造、発注に必要な関連付け、顧客がログイン後に確認する基本情報 | 実際の管理画面の権限と表示を、対象ストアで検証する |
| Customer Account UI Extension | 状態の表示、外部申請への導線、問い合わせ・変更依頼の起票、補足情報の案内 | プロフィール等の利用可能な拡張ポイントと、必要な開発・保守体制を確認する |
| 外部フォーム・社内台帳・文書保管 | 審査、承認履歴、書類原本、社内限定メモ、例外判断 | 個人情報・取引情報の閲覧権限、保存期間、監査上の要件を先に定義する |
Shopify Developerの資料では、Customer Account UI Extensionは新しいお客様アカウントを対象とし、既存画面の拡張に加えてフルページの追加もできるとされています。B2Bプロフィール向けには、会社情報、拠点住所、支払方法、スタッフ管理の周辺で利用できるターゲットが案内されています。
ここで有効なのは、プロフィール画面に「審査中」「書類の追加提出が必要」「担当者追加を申請する」といった案内を置き、顧客の次の行動を一つに絞ることです。ただし、案内を表示する拡張と、申請内容を受け付けて承認履歴を保管する仕組みは別物です。Extensionから外部の申請ページや問い合わせ窓口へ遷移させる場合も、どのIDで申請と顧客・会社・拠点を照合するかを事前に定めます。
要件定義では、各項目に対して次の3つを個別に記載します。
たとえば配送先住所では、「既存住所を表示する」「新住所を申請させる」「審査後に拠点情報へ反映する」は別々の処理です。顧客による即時変更を許容するのか、社内確認を必須にするのかは、商材、与信、配送、請求の条件に応じて判断します。
申請フォームをShopifyのログイン前に置くか、ログイン後に置くかは、申請者の属性と照合方法で決めます。未取引の事業者が申請する導線なら、ログイン前に公開する申請ページまたは外部フォームが必要になる場合があります。既存取引先の担当者追加や拠点変更なら、ログイン後のプロフィール画面から申請させるほうが、対象会社を特定しやすくなります。
どちらの場合でも、申請ごとに受付IDを付け、以下を同じ台帳行または連携レコードで結びます。
必要書類については、ファイルアップロードの利便性だけで保管先を決めないでください。書類に含まれる情報、社内の閲覧者、保存期間、削除手順、再提出時の版管理を確認します。顧客プロフィールに「提出済み」と表示する場合も、ファイルそのものを表示するのか、書類名と確認状態だけを表示するのかを分けて検討します。
書類未提出の状態でログインを認める場合は、注文や価格表示をどこまで許可するかも明記します。「閲覧のみ」「カート追加は可能だが注文は不可」「特定拠点への発注のみ可」といった判定があるなら、顧客案内、CSの回答、テストケースで同じ言葉を使います。実現方法はストアの設定、導入アプリ、独自実装によって異なるため、要件だけで実装可能と判断せず、対象環境で検証してください。
B2Bの担当者運用では、法人取引の承認と、個人の利用権限の付与を区別します。会社が取引可能であっても、申請者がその会社を代表して発注できるとは限りません。このため、担当者追加の申請には、少なくとも次の確認項目を用意します。
ShopifyのB2Bプロフィール向けExtensionにはスタッフ管理に関する拡張ポイントが案内されています。これは、ログイン後の導線として担当者管理の案内や申請機能を検討できる根拠になります。ただし、自社のストアで顧客がどのスタッフ情報を閲覧・変更できるか、また誰が承認するかは、利用する機能、権限設定、実装によって確認が必要です。
担当者自身が追加を実行できる設計にする前に、「追加者が誤って別会社・別拠点の担当者を招待できないか」「退職者が残った場合に誰が検知するか」「CSが依頼を受けた際に正しい会社を特定できるか」を受入テストに入れます。即時反映を採る場合でも、操作履歴、通知先、取り消し手順を台帳に残せるようにします。
新しいお客様アカウントへの移行では、従来テーマのログイン後リダイレクト処理を前提にしていた導線を、そのまま再現できるとは限りません。コミュニティ上には、新しいお客様アカウント移行時の互換性や、B2B利用時のログイン後遷移についての個別相談があります。これらは仕様の一般化や実装可否の根拠ではありませんが、自社の導線を画面単位で検証する必要を示す材料にはなります。
設計時は「ログイン後にどのURLへ遷移するか」だけでなく、状態別に最初に見せるべき情報を決めます。
| 顧客状態 | 最初に案内する内容 | 主要な行動 |
|---|---|---|
| 申請未完了 | 申請の続き、必要情報、問い合わせ先 | 申請を完了する |
| 書類確認待ち | 受領済み書類、不足項目、確認予定の連絡先 | 不足書類を提出する |
| 承認済み・初回前 | 発注方法、対象拠点、支払・配送に関する案内 | 商品を探し、初回発注する |
| 発注中 | 注文履歴、会社・拠点情報、担当者変更窓口 | 再発注または変更を申請する |
| 停止・再確認中 | 利用制限の理由、必要な連絡先、再開条件 | CSまたは営業へ連絡する |
プロフィール画面へのExtensionやフルページ追加を用いる場合、ここで定義した「状態」と「次の行動」を表示する候補になります。一方、ログイン画面そのものへの独自要素の追加可否と、ログイン後画面の拡張可否は同一ではありません。ログイン前の申請案内は、ログインページ内への追加を前提にせず、ストアの公開ページ、ヘルプページ、営業案内メールなども含めて設計してください。
本番切り替え前には、管理者アカウントだけで確認せず、役割と状態を変えたテストを実施します。テスト結果は、成功・失敗だけでなく、想定と異なる場合の一次対応者まで台帳に残します。
最後に、移行プロジェクトで共有する台帳の列を示します。スプレッドシート、チケット管理ツール、業務システムのいずれで管理しても構いませんが、顧客対応の記録と設定変更の記録が分断しないようにします。
| 区分 | 記録する項目 | 記入例の考え方 |
|---|---|---|
| 申請 | 受付ID、申請種別、申請日時、申請者 | 新規取引か担当者変更かを区別する |
| 顧客識別 | 会社、拠点、担当者、照合キー | 同名法人・複数拠点を取り違えないための情報 |
| 審査 | 確認項目、担当者、判定、判定日時 | 可否だけでなく確認済み項目を残す |
| 書類 | 必要書類、受領状況、保管先、確認者 | ファイル保管先と状態表示を分けて記録する |
| Shopify設定 | 設定内容、実施者、実施日時、確認結果 | 会社・拠点・担当者に関する変更を追えるようにする |
| 顧客案内 | 送信チャネル、文面種別、送信日時 | 初回発注案内や差戻し案内を追跡する |
| 例外 | 例外理由、承認者、有効期限、見直し日 | 口頭判断を恒久ルールにしない |
| テスト | テスト状態、期待結果、実結果、課題、担当 | 本番後も再テストできる形で残す |
台帳は、すべての情報をShopifyへ複製するためのものではありません。むしろ、どの情報がShopify上の取引設定に必要で、どの情報が審査・書類保管・社内連絡として別管理されるかを明確にするためのものです。新しいお客様アカウントの画面拡張を検討する前にこの台帳を作ると、開発要件を「画面に何を出すか」ではなく、「顧客の状態をどう判定し、誰が更新責任を持つか」として渡せます。
記事では答えきれない個別の状況にもお応えします。