ECと実店舗、倉庫の在庫を連携していても、「在庫がある」と「今この注文に約束できる」は同じ意味ではありません。
たとえば、店舗に3点あっても、1点は来店客向けの取り置き、1点は別店舗への移動中、残る1点も棚卸差異の確認中であれば、EC注文へ即時に引き当てられるとは限りません。ここで合計在庫だけを商品ページ、受注処理、CS案内に使うと、欠品、分割出荷、店舗業務への影響、到着予定の案内ぶれが起きやすくなります。
必要なのは、在庫同期の有無とは別に、「どのSKUを、どの拠点から、どのチャネルの注文へ、いつまでに約束してよいか」を記録・判断するルールです。本記事ではこれを在庫約束台帳と呼びます。
なお、アパレル業界関係者を対象とした調査を紹介した報道では、OMO未着手企業が挙げた課題として、店頭・EC在庫管理や、店舗欠品時の取り寄せ工数、EC・モール間の在庫一元管理不足が示されています。これは個社の運用課題を診断する材料にはなりますが、自社の優先順位は受注データ、欠品理由、移動リードタイムで確認してください。
以下のShopify・futureshopの仕様は、各公式マニュアルを2026年9月15日時点で確認する前提で記載します。機能の利用可否、契約プラン、連携アプリ・基幹システム側の処理は、実装前に最新の公式情報と自社環境で再確認してください。
在庫の物理的な所在と、販売・出荷・受取の約束に使える数量は分けて管理します。最低限、SKU×拠点ごとに次の状態を区別します。
| 状態 | 意味 | ECの商品ページ表示に使うか | 受注引当に使うか |
|---|---|---|---|
| 帳簿在庫 | 拠点に存在すると記録される総数 | 原則使わない | 原則使わない |
| 販売可能数 | その拠点・チャネルで新規販売を受けられる数 | 条件付きで使う | 使う |
| 受注引当済み | 受注に確保し、他注文へ回せない数 | 使わない | 使わない |
| 店舗取り置き | 来店客、店頭受取などへ確保した数 | 使わない | 使わない |
| 移動中 | 出荷元から出たが、移動先で受領していない数 | 原則使わない | 使わない |
| 安全在庫 | 誤差、店頭販売、返品・検品などのために残す数 | 使わない | 使わない |
| 取り寄せ可能数 | 所定の条件なら他拠点から調達できる数 | 即納在庫としては使わない | 取り寄せ受注の判定に使う |
| 確認保留 | 棚卸差異、破損、検品待ちなどで確認中の数 | 使わない | 使わない |
ここで重要なのは、取り寄せ可能数を販売可能数へ混ぜないことです。取り寄せ可能でも、出荷元店舗の営業状況、店頭取り置き、移動便、検品、受取店舗の受領作業によって、顧客へ渡せる日は変わります。
販売可能数は、単純な物理在庫ではなく、チャネル別の販売許可を反映した値として扱います。概念上は次のように置けます。
販売可能数 = 帳簿在庫
- 受注引当済み
- 店舗取り置き
- 出荷・移動の処理中数量
- 安全在庫
- 確認保留数量
ただし、この式をそのまま各システムの在庫計算式として実装できるとは限りません。基幹、WMS、POS、カート、在庫連携ツールのどれを正とするか、どの状態を連携できるかを先に決める必要があります。
台帳は、在庫数の集計表ではなく、受注時の判断を同じ基準に寄せるための定義表です。全SKUを手作業で管理する必要はありません。まずは欠品や取り寄せ判断が多いSKU群、主要拠点、主要チャネルから始めます。
次のような列を用意すると、販売、物流、店舗、CSで確認する情報を揃えやすくなります。
| 分類 | 項目例 | 判断に使う内容 |
|---|---|---|
| 識別 | SKU、商品名、バリエーション、拠点コード | 商品・サイズ・色・拠点を一意に特定する |
| 在庫状態 | 帳簿在庫、引当済み、取り置き、移動中、安全在庫、確認保留 | 新規販売に回せない理由を分ける |
| 販売設定 | EC販売可、店舗販売優先、モール販売可、店頭受取可 | チャネルごとの販売許可を明文化する |
| 取り寄せ設定 | 取り寄せ元候補、取り寄せ可否、出荷締め、移動便、受領作業 | 「他店にある」を約束可能へ変換できるかを判定する |
| 顧客約束 | 即納期限、取り寄せ時の案内期限、分割出荷可否、代替提案可否 | CSと購入画面の案内をそろえる |
| 統制 | 更新元、更新時刻、更新担当、例外理由、確認期限 | 古いデータや判断保留を追跡する |
拠点コードは、POS、WMS、カート、連携ツールで同じ意味になるよう対応表を維持します。名称だけで運用すると、「新宿店」と「新宿店バックヤード」のような近い名称を別拠点として扱う事故を発見しにくくなります。
同じ販売可能数が1でも、販売可否はSKUの特性で変わります。たとえば限定品、予約品、セット商品、冷蔵・大型商品、店舗限定品では、物流制約や販売方針を別途持つ必要があります。
台帳では少なくとも、以下を明文化します。
「商品ページに表示する在庫」と「社内で引当判断に使う販売可能数」は一致させなくても構いません。表示を「残りわずか」「店舗に在庫あり」のような文言にする場合でも、その文言が即時出荷、店舗受取、取り寄せのどれを意味するのかを定義しておくことが重要です。
担当者の経験だけで拠点を選ぶ運用では、繁忙時や不在時に判断が変わります。受注後に必要な判断を、状態別の例外キューとして分けます。
EC受注時の引当順序は、次のように設計できます。
この順番では、他拠点の帳簿在庫が残っていても、無条件で取り寄せに進みません。店舗取り置き、最低残数、棚卸保留、移動締め切りを判定に含められるためです。
通常フローより、判断保留を放置しない仕組みが重要です。少なくとも次のキューと担当・期限を定めます。
「確認中」を在庫ゼロとして扱うのか、販売停止として扱うのかも決めます。重要なのは、確認中のまま販売可能数に残さないことです。
Shopifyでは複数ロケーションを使う場合、オンライン注文は利用可能在庫と設定したorder routingに基づいてロケーションへ割り当てられます。1拠点で注文全体を満たせないときは、複数ロケーションへの分割、または優先ロケーションでのオーバーセルが起こり得ると公式ヘルプは説明しています。
したがって、「最寄り店舗に在庫があるからその店舗から出るはず」とは限りません。受注の割当結果と自社の約束ルールが一致するかを確認してください。
Shopifyは、Available、Committed、Unavailable、Incomingなどの在庫状態を区別します。公式ヘルプでは、Incomingは受領されてAvailableになるまで販売可能在庫ではなく、Committedには未発送注文や出荷準備済みの在庫移動で確保された数量が含まれるとされています。
台帳と対応づける際の確認観点は次の通りです。
また、Shopifyの在庫移動では、移動中、出荷準備、受領済みの処理が区別されます。移動先が販売・フルフィルメントに使える状態になったと判断するのは、少なくとも移動先で受領処理を行い、対象商品の在庫設定も確認してからにします。移動を作成した時点で移動先在庫を販売可能として扱う設計は避けます。
店頭受取で他ロケーションから受取店舗へ在庫を移すstore transfersは、Shopify公式ヘルプ上、Shopify Plus向けの機能です。店頭取り寄せの運用をこの機能に依存する前に、契約プラン、設定可否、移動処理時間、受取可能と表示する条件を確認してください。
futureshopでは、実店舗の在庫管理システムとAPI連携し、商品ごとの取扱店舗一覧や店舗在庫を表示できます。利用には実店舗在庫表示機能の申し込みと、在庫管理システム側からの在庫連携が必要です。表示対象となるのは在庫店舗コードを登録した店舗です。
ここで確認したいのは、店舗在庫の表示ができることと、その店舗在庫をEC注文の出荷または取り寄せに使えることは別、という点です。futureshopの画面表示を在庫約束台帳へつなぐ場合は、次を確認します。
futureshopの実店舗在庫一覧では、在庫店舗コード・商品番号で連携済みの在庫を検索し、在庫数または在庫表示文言、データ日時を確認できます。一方、そのデータ日時はECサイトには表示されません。購入者に店舗在庫を見せる場合でも、運用側はデータ鮮度を監視し、基準を超えたときの表示・受注判断を決めておく必要があります。
在庫約束台帳は一度作って終わりではありません。連携エラーよりも、設定変更、店舗作業の遅れ、例外受注でずれることがあります。日次で差分を見つけ、定期的に注文シナリオを通します。
SKU×拠点ごとに、少なくとも以下を照合対象にします。
差異を見つけたら、いきなり数値を上書きするのではなく、正とするシステム、差異理由、修正担当、再発防止の要否を記録します。帳簿修正とEC販売停止は、必要に応じて別の判断です。
設定変更時、繁忙期前、拠点追加時には、少なくとも次のケースをテスト注文で確認します。
テストでは、在庫数だけでなく、どのロケーションへ割り当てられたか、社内通知が誰へ届くか、商品ページ・注文確認・CS画面の案内が矛盾しないかを確認します。
複数拠点の在庫を扱う際、最初から全SKU・全チャネルのリアルタイム連携を目指すと、状態定義や例外処理が未決定のまま実装が進むことがあります。まずは対象範囲を限定し、約束を守れる状態を作る方が、移行リスクを抑えやすくなります。
進め方の例は次の通りです。
在庫を公開する範囲を広げることは、販売機会につながる可能性がある一方で、店舗作業、移動費、分割出荷、CS対応の負荷も増やします。「店舗にあるから売る」ではなく、「その在庫を使って約束した期限と体験を守れるか」を、SKU×拠点×チャネルで判断できる状態を目指してください。
記事では答えきれない個別の状況にもお応えします。